八味地黄丸(はちみじおうがん)と牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)。
同じような症状に使われるこの二つの漢方の違いについて今回は解説していきたいと思います。
補腎剤
八味地黄丸と牛車腎気丸が同じような症状に使われるのはどちらも補腎剤と呼ばれる分類に属している漢方薬だからです。
補腎剤とは腎虚を改善する漢方薬のことを指します。
腎虚ってなんだろ?
腎虚
腎虚を説明する前に西洋医学とは異なる東洋医学における『腎』について説明する必要があります。
西洋医学での腎臓の役割は主に3つです。
西洋医学の腎臓と東洋医学の腎はイコールの関係ではありません。
東洋医学での腎とは生命エネルギーである『精』を蓄えるところです。
現代においても使われる『精がつく』という言葉はここからきています。
このことから腎は老化と深い関係がある臓器といえます。
そして腎虚とは腎の機能が低下したり、不足している状態の事を指します。
腎虚では腰痛や骨粗鬆症、脱毛や白髪、難聴や耳鳴り、皮膚の乾燥・痒み、排尿障害や尿失禁、下肢の冷えやだるさなどの症状が現れます。
補腎剤である八味地黄丸や牛車腎気丸は腎を補い、上記の症状を改善します。
老化現象に伴う症状を改善する事から漢方のアンチエイジング薬とも言えます。
構成生薬の違い
八味地黄丸と牛車腎気丸の構成生薬にはどんな違いがあるでしょうか?
まずは八味地黄丸の構成生薬
- 地黄(ジオウ)
- 山茱萸(サンシュユ)
- 山薬(サンヤク)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 沢瀉(タクシャ)
- 牡丹皮(ボタンピ)
- 桂皮(ケイヒ)
- 附子(ブシ)
上記8種類。
次に牛車腎気丸の構成生薬
- 地黄(ジオウ)
- 山茱萸(サンシュユ)
- 山薬(サンヤク)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 沢瀉(タクシャ)
- 牡丹皮(ボタンピ)
- 桂皮(ケイヒ)
- 附子(ブシ)
- 牛膝(ゴシツ)
- 車前子(シャゼンシ)
上記10種類。
すぐにお気づきかと思いますが、八味地黄丸に牛膝と車前子が加わったものが牛車腎気丸です。
牛車腎気丸という名前は八味地黄丸の別名である腎気丸に牛膝の『牛』の字と車前子の『車』の字をとって命名されています。
八味地黄丸と牛車腎気丸の使い分け
構成生薬の部分で述べたように牛車腎気丸には牛膝と車前子が入っています。このふたつの生薬に注目して使い分けると良いです。
牛膝
牛膝はヒユ科ヒナタイノコズチの根を乾燥したものです。
茎に牛の膝に似た節があるところから牛膝と名付けられています。
牛膝という名前は聞きなれないかもしれませんがイノコズチという植物は草むらなどを歩くと衣類にくっつく、ひっつき虫として知られてるものです。
効能としては補腎・活血・利水・止痛作用があります。
車前子
車前子はオオバコの種子を乾燥させたものです。
車前子という名前は牛車の踏み通る道端の跡に好んで生えることから名付けれました。
子供のころオオバコの茎を絡ませ引っ張り合うオオバコ相撲をしたことがある人も多いのではないでしょうか?意外と身近にある植物です。
効能としては止咳・去痰・利水・明目作用があります。
使い分けのポイント
腰部・下肢の痛みやしびれ・むくみが強い場合には八味地黄丸より牛車腎気丸が適しているといえるでしょう。
また車前子には明目作用があることからかすみ目・疲れ目・充血などの眼の症状を伴う場合には牛車腎気丸が効果的です。