五苓散(ごれいさん)と 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう) 。
どちらもむくみの改善や利尿作用など体の水に関わる漢方というイメージがあるかと思います。
今回はこのふたつの漢方の違いについて解説していきます。
水毒
このふたつの漢方を語る上で重要なキーワードとなるのは「水毒」です。
水毒とは体に余計な水分が溜まってしまっている状態のことを指します。
水毒は主にふたつの種類に分けられます。目にみえる水毒と目に見えない水毒です。
目にみえる水毒:体のむくみや、腹水、嘔吐・下痢などの症状。
目にみえない水毒:体のだるさ、四肢の痛み、頭痛・めまい、動悸などの症状。
防已黄耆湯と五苓散は水毒を改善する漢方の代表処方です。
また症状が起こっている部位でも分けることができます。
表の水毒(体表面での水毒):多汗、関節痛、むくみ
裏の水毒(体内の水毒):腹水、嘔吐・下痢、頭痛・めまい
構成生薬の違い
五苓散
- 猪苓(チョレイ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 朮【蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ)】
- 沢瀉(タクシャ)
- 桂皮(ケイヒ)
防已黄耆湯
- 防已(ボウイ)
- 黄耆(オウギ)
- 朮【蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ)】
- 生姜(ショウキョウ)
- 大棗(タイソウ)
- 甘草(カンゾウ)
ふたつの漢方処方に共通している生薬は朮(ジュツ)です。
製薬メーカーによって蒼朮か白朮かの違いがあります。
どちらも水分の代謝を改善する生薬ですが、次のような違いがあるため病態に合わせた使い分けが大切です。
健脾の作用:白朮>蒼朮
燥湿の作用:蒼朮>白朮
朮以外の生薬に注目してみると
五苓散には猪苓、茯苓、沢瀉、桂皮という生薬が入っています。
桂皮以外の猪苓、茯苓、沢瀉には利水作用があります。
東洋医学での利水作用とは西洋医学での利尿作用と同意義ではなく、水分が過剰な状態では水分を取り去りますが、不足している状態のときには水分を保持する方向に働きます。
五苓散の使用目標に口渇があります。
口渇というと水分が足りていないイメージがありますが、水分がバランスよく巡っていないことに起因しています。利水作用による水分調節作用により口喝も改善されます。
防己黄耆湯には朮以外に防己、黄耆、生姜、大棗、甘草が入っています。
防己黄耆湯の主薬は防已と黄耆です。名前の由来にもなっている生薬です。
防已は利水・鎮痛作用のある生薬です。表にとどまっている水を取り去る効果がありますが、その作用は全身ではなく、主に腰から下の部位に効果を発揮します。
黄耆は体表の気を補う生薬であるとともに表に留まっている水を取り除く効果もあります。
黄耆は水を強制的に排除する作用ではなく、水を巡らせる力を補う生薬です。
生姜、大棗、甘草は脾胃を補う目的で多くの漢方処方に含まれている組み合わせです。
五苓散と防己黄耆湯の使い分け
使い分けには症状が現れている部位で判断するのがよいと思います。
体内の水毒には五苓散がおすすめ
体内つまり消化管や臓器で起こっている水毒の症状には五苓散が効果的です。
具体的な症状をあげると吐き気・下痢、めまい、頭痛、むくみなどです。
また体内の水毒を改善するので二日酔いにも効果的です。
二日酔いについてはこちらの記事をご覧ください。
体表の水毒には防已黄耆湯がおすすめ
防已黄耆湯が効果を発揮しやすいのは体表の水毒。特に効果があるのは下半身の水毒です。
多汗症、関節痛、むくみなどの症状があげられます。
また水太り型の肥満にも効果があります。水太りというのは洋ナシ型の肥満です。
ダイエットについてはこちらの記事をご覧ください。
また補気作用もあるので水滞によるだるさにも効果的です。